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OpenBSD発の音声フレームワーク - sndio

EBUG 第66回会合
2018年 8月25日、長岡市 ながおか市民センター
川俣吉広、kaw@on.rim.or.jp

sndioとは

sndio(7)は音声を統一的に扱うための枠組み(フレームワーク)で、Alexandre Ratchovらによって2008年リリースのOpenBSD 4.5に始めて導入された。 現在はFreeBSD/NetBSD/Linuxにも移植されている。

ALSA, JACK, OSS, PulseAudioなどの音声フレームワークと同様、sndioは音声を扱うハードウェアとアプリケーションとの橋渡しをする。 具体的には、sndioは以下のような機能を持っている。

音声デバイスを共有する
音声アプリケーションがデバイスに直接アクセスした場合、アクセスできるのは単一のアプリケーションだけ。
sndioを介在させることで複数のアプリケーションが同時に音声を再生・収録できることを可能にする。
音声のフォーマット変換を行う
音声データの形式、サンプルレート、量子化ビット深度、チャンネル数などのパラメータが音声デバイスとアプリケーションとで異っていても、sndioで変換を行うことで支障なく使用できる。
音源の制御を可能にする
sndioは音声データそのもの以外に、起動・停止、音量制御、タイムコードなどをMIDIプロトコルを使用して伝送することができる。これにより、音源の制御を行うことができる。
信号のルーティングを行う
sndioサウンドサーバでは複数の音源をミックスしたり、あるいは複数の音声アプリケーションへ送出するなどのルーティングを行う。
これらの伝送はネットワークを経由して、他ホストで稼動している音声デバイスやアプリケーションを使用することもできる。

構成

以下に、OpenBSDでsndioフレームワークが動作している様子の例を示す。

sndio.png
ハードウェア
様々な音声機器は、PC内の音声コーデックに接続される。コーデックはアナログ機器とのA/D, D/A変換や複数入出力のミキシングやファンアウト、そして各信号のレベル制御などをおこなう。
デバイスドライバ
カーネル内には、コーデックに対応したデバイスドライバがあり、コーデックの機種毎の機能に対応した制御を行う。 例えばIntelのICH8 I/Oコントローラ・ハブはIntel(R) HD Audio規格のコーデックを搭載しており、これに対応するドライバは、azalia(4)である。
コーデックに対応したドライバの上位にはデバイス非依存のaudio(4)があり、ユーザプロセスに対して一貫したAPIを提供する。
このレイヤーを参照・操作するツールとしてaudioctl(1)mixerctl(1)が提供されている。
$ audioctl
name=azalia0
mode=play,record
pause=0
active=1
nblks=8
blksz=960
rate=48000
encoding=s16le
play.channels=2
play.bytes=3796930560
play.errors=883200
record.channels=2
record.bytes=3796930560
record.errors=552960

$ mixerctl -v | sort
inputs.dac-0:1=234,234 
inputs.beep=119 
inputs.beep_mute=off  [ off on ]
inputs.dac-2:3=234,234 
inputs.hp_source=sel6,mix6  { sel6 mix6 }
inputs.mic2=0,0 
inputs.mic3=0,0 
inputs.mic3_source=sel7,mix6  { sel7 mix6 }
inputs.mic=0,0 
inputs.mix4_source=sel3,mix6  { sel3 mix6 }
inputs.mix6_mic2=0,0 
inputs.mix6_mic=0,0 
inputs.mix6_source=mic,mic2  { mic mic2 }
inputs.sel3_source=dac-0:1  [ dac-0:1 dac-2:3 ]
inputs.sel4_source=dac-0:1  [ dac-0:1 dac-2:3 ]
inputs.sel6_source=dac-0:1  [ dac-0:1 dac-2:3 ]
inputs.sel7_source=dac-0:1  [ dac-0:1 dac-2:3 ]
inputs.spkr_source=dac-2:3,mix6  { dac-2:3 mix6 }
outputs.hp_boost=off  [ off on ]
outputs.hp_mute=off  [ off on ]
outputs.hp_sense=plugged  [ unplugged plugged ]
outputs.master.mute=off  [ off on ]
outputs.master.slaves=dac-0:1,dac-2:3,hp,spkr  { dac-0:1 dac-2:3 beep hp spkr mic3 mix6 mic3 }
outputs.master=255,255 
outputs.mic2_dir=input-vr80  [ none input input-vr0 input-vr50 input-vr80 input-vr100 ]
outputs.mic3_dir=input-vr80  [ none output input input-vr0 input-vr50 input-vr80 input-vr100 ]
outputs.mic3_mute=off  [ off on ]
outputs.mic3_sense=unplugged  [ unplugged plugged ]
outputs.mic_dir=input-vr80  [ none input input-vr0 input-vr50 input-vr80 input-vr100 ]
outputs.mic_sense=plugged  [ unplugged plugged ]
outputs.mix6=0,0 
outputs.mix6_mute=off  [ off on ]
outputs.spkr_boost=off  [ off on ]
outputs.spkr_eapd=on  [ off on ]
outputs.spkr_mute=on  [ off on ]
outputs.spkr_muters=hp,mic3  { hp mic3 }
record.adc-0:1=200,200 
record.adc-0:1_mute=off  [ off on ]
record.adc-0:1_source=mic  [ mic mic2 ]
record.adc-2:3=200,200 
record.adc-2:3_mute=off  [ off on ]
record.adc-2:3_source=mic2  [ mic mic2 ]
record.volume.mute=off  [ off on ]
record.volume.slaves=adc-2:3,adc-0:1  { adc-2:3 adc-0:1 mic mic2 }
record.volume=200,200 
音声サーバ - sndiod(8)
sndioフレームワークの中核で、ブート時に起動されデフォルトの音声デバイス/dev/audioへのアクセスを提供する。前節の「概要」で述べた機能の殆どは、このsndiodによってサポートされる。
sndiodと音声アプリケーションはソケットインターフェースを使ってデータのやり取りをする。よって、ネットワーク経由で他ホストのsndiodや音声アプリケーションとデータのやり取りをすることも可能。
ユーザコマンド - aucat(1)
コマンドレベルでsndioにアクセスするためのツール。aucatもsndiod同様、sndioの機能の殆どを提供する。
sndiodがデーモンとしてバックグラウンドで機能を提供するのに対し、aucatはユーザが直接オンライン、あるいはオフラインでsndioの機能を利用することを意図して作成されている。
例えば、aucatには処理を行う音声データをファイルから入力したり、ファイルへ出力したりする機能がある。

aucatコマンド自体はOpenBSD 2.0から存在し、sndioフレームワークが登場する以前のOpenBSD 4.3までは単に複数の音声ファイルを連結して再生する(concatenate and play audio files)コマンドだった。
OpenBSD 4.5でsndioフレームワークが登場した時点ではsndiodはなく、aucatがデーモンの役目も負っていた。OpenBSD 5.1以降はsndiodとaucatとに役割が分割された。
音声アプリケーション
音声を扱うアプリケーションでsndioを使用するには、以下のパターンが考えられる。
  • 音声アプリケーション自体が、最初からsndioに対応している。
    ...特に手を加えずにビルドして使う。

  • 音声アプリケーション自体は対応していないが、アプリケーションがリンクするライブラリが対応している。
    ...例えば音声編集ソフトのAudacityなど。Audacity自体はsndioに対応していないが、クロスプラットフォームの音声ライブラリであるPortAudioをリンクしてビルドするとPortAudioはsndioをサポートしているため、Audacityもsndio対応となる。
    portaudioを使っているportsを数えてみる
    $ cd /usr/ports
    $ find * -type d -name patches | xargs grep -rils 'portaudio' | cut -d/ -f1,2 \
    | sort | uniq | wc -l
    12

  • 音声アプリケーションにsndio対応のパッチを当てる。
    ...次項で説明するsndio APIを用いるように、アプリケーションのソースコードを変更する。
    ports/packagesでは、このケースが最も多いようだ。
    sndio対応のパッチを当てているportsを数えてみる
    $ cd /usr/ports
    $ find * -type d -name patches | xargs fgrep -rls 'sndio.h' | cut -d/ -f1,2 \
    | sort | uniq | wc -l
    41

  • sndioに対応していない音声アプリケーションとsndioツールを組合せて使う。
    ...音声アプリケーションが再生あるいは収録のみで、リアルタイム性を要求されないのであれば、パイプやファイルを経由してaucatなどとデータのやりとりをする。

API

sndio APIを使用するには、libsndioより提供される各種関数を使う。

sio_*が音声ストリーム関連、mio_*がMIDIストリーム関連の関数となる。

処理の流れ:

sio_initpar()  /* パラメータの初期化 */
   ↓
sio_open()     /* 音声デバイスや音声サーバに接続 */
   ↓
sio_setpar()   /* パラメータの設定 */       ←←←←
sio_getpar()   /* 設定結果の確認 */                ↑
   ↓                                              ↑
sio_start()    /* 処理の起動 */             ←←←-↑
   ↓                                              ↑
sio_read(), sio_write()  /* 入出力 */              ↑
   ↓                                              ↑
   ↓→→パラメータを変更する場合→→ sio_stop() →↑
   ↓    処理を一時的に中断する場合など
   ↓
sio_close()     /* 接続を閉じる */

MIDI接続の場合も、これに準ずる。

sio_open()では、一番目の引数で、以下の記法によって接続先を指定する:

type[@hostname][,unit]/devnum[.option]

type
音声デバイスの種類 ... rsnd, rmidi, snd, midithru, midi, default
hostname
リモートに接続するばあいのホスト名
unit
接続するサーバの番号
devnum
デバイスの番号
option
サブデバイス文字列

この記法はsndiodやaucatなどで音源のデバイスやサーバに接続する場合の接続先指定としても使用される。

例:

rsnd/0 ... /dev/audio0 に直接アクセス (sndiodを介さない)
snd/0.rear ... デフォルトで起動しているsndiodのリアスピーカ出力

参考:

sndioの使用例

報源


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